セザンヌは自然をこう視た 60.三角形というかたち

では、そもそも「三角形」とは、どういう「かたち」なのだろう?

絵の歴史を通じて、最も数多く使われてきた構成は「三角形」にちがいない。

最も「安定感」をもたらす「ピラミッドのかたち」は、絵画に限らぬ多くの美術分野で多用されてきた。とくに絵画においては、「ピラミッドのかたち」とともに、それを逆さにした「逆三角形」が「不安定感」を生み出すものとしても多用された。

使い方にもよるが、絵描きである自分にとっても、確かに四角形や五角形は「三角形」ほどシンプルでなく、ダイナミックで劇的な効果が期待しにくく、面白みに欠ける気がする。

20世紀を代表するピカソでさえ ―彼は伝統の破壊者としても高名であるが― その『ゲルニカ』では、大枠で、きわめて手堅い「三角形」の構図を使っている。

アングル ルイ13世の誓願 1824
ミレー 落穂拾い 1857
ピカソ ゲルニカ 1937
リンゴとオレンジ 1895-1900
「逆三角形」構図の作例
もうひとつの不安定な三角形がみえる

つまり、あらゆる時代、地域を通じて、「三角形」は最も頻繁に構図・構成の基本として愛用されつづけているのである。

では、実際に絵を描くとき、「三角形」はどんな意味を持つのか?

例えば、デッサンする上で、「かたち」を正確につかまえるコツを考えてみる。

僕たちが、モティーフのかたちを正しく一枚の紙に写そうとする場合、具体的なモティーフたちの「かたち」をデッサンすると同時に、それらの頂点を縫合することで、様々な眼に見えない「三角形」を ―先ずは大まかに、そして次第に小さく細かく― 無数に描き、「かたち」を構築していく。

これは、絵を少しでも学んだ人なら知っていることだが。

…何故、そうするのか?

▶目次へ