セザンヌは自然をこう視た 59.セザンヌの『水浴図』、三角形の意味

女性水浴図に「三角形」の構成が多用される理由について。いまひとつは、画面に自然界の「奥行き」をもたらすためだったとも考えられる。

例えば、僕たちは森に入り樹々を見上げたとき、左下の写真に示した様な「線による遠近法」(=パース)によって外界を眺めている。(話を判り易くするために、直線的な竹林の写真にしてみた。)

セザンヌは、自然の懐の深さ、森の樹々の大きさを表現するために、樹々の描写をいわば“隠された線遠近法の表現”として「三角形」で強調・単純化し、それを正面性の強い大画面にはめ込んだのではないか―

つまり、『赤いベストの少年』では、主に真横と斜め上から俯瞰(ふかん)した「視点の合成」があったのだが、下の『大水浴図』では、真横とそこから見上げる「“視線”の合成」を試みたとみてもよい訳だ。ただし、『大水浴図』の樹々は、竹林の写真の様に先すぼみの“太さの変化”がみられず、ゆえに、地面と空中からの「視点の合成」を試みたとみてもいいのかも。

左/筆者アトリエ付近の竹林(取手) 右/渡辺貴夫 透視図による列車内左
大水浴図  1898-1905

因みに、「線遠近法」で示されるいくつもの直線は、上の右図の様に、自然の景色よりも、建物や道、電車内など、人工物の場合に(とくに美術の勉強をしていない人でも)ハッキリと判る。(出典:別冊アトリエ112号1972)

「三角形」として現れ易い「線遠近法」による奥行きの表現は、勿論、セザンヌに限らず、多くの絵画に見てとれる。ここに挙げた『大水浴図』では、「視点の合成」ないし「視線の合成」があったため、かなりエキセントリックで大胆に「三角形」が立ち現れており、その朴訥(ぼくとつ)さが“セザンヌらしさ”にもつながっている。

晩年、正面性がいっそう強くなり、ますます“モニュメンタルで平面的”になっていく水浴図は、ブルーが多用され、“線遠近法の表現”としての「三角形」が使用されることで、“自然界の懐の深さ・雄大さ(=「奥行き」)”が加わった、そんなふうに僕には感じられるのだ。

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