セザンヌは自然をこう視た 18.『リンゴとオレンジ』は安定しているか、不安定か

前の回は『リンゴとオレンジ』を話し始めたとたん、時間切れとなってしまった。

まずはこの作品を、セザンヌの眼前に存在した実際のモティーフ、つまり、現実の「空間」として眺めてみることから。

リンゴとオレンジ 1895-1900

静物たちがのっている台、これは、恐らくソファーだろうか。それを“斜め上方”から俯瞰した構図だ。一方、果物たちをのせている白いクロスは、“真横”からの視点でガッチリはめ込まれているかのようにかかれている。

つまりこの絵は、ソファーとクロスのふたつだけを注目しても、全く異なった視点によってかかれている。 なるほど、セザンヌ特有の空間の歪みや不安定感が伝わってくる。が、―絵の巧妙さと言うべきか―果物の色の美しさやカーテンの(ようにも見える)柄の紋様などに眼を奪われ、初めはそんな“視点のちぐはぐさ”に気づかない。

眼をひく具体的な品々の色の輝きや紋様が強調され、“視点のちぐはぐさ”が目立たなくなるというトリック。 このトリックによって、ソファーは、結果としては、斜めに傾いているようにも見えてしまう。

こうして、そんなソファーから、熟れ切ったリンゴとオレンジが左下へと今にもこぼれ落ちてしまいそうな、危うく「不安定」な印象を与えることに成功している。 (前に述べた通り、「ソファーからこぼれ落ちてしまいそうな果物たち」に的をしぼっている。)

次に、この絵を単なる「平面」の構成として眺めるとどうなるか。

この絵は、左に示した赤と青のふたつの三角形と、その頂点を貫く“わずかに右上がりの水平線”(=黒の線)によって、大枠では構成されています。

このふたつの三角形によって、この作品の構成は、大変に劇的でありながら―気がつけば、“わずかに右上がりの水平線”の上に、リンゴとオレンジたちが、上下対称にキチンと乗せられている点など――かなり計算づくに構成されていることもわかってくる。つまり、この作品は、平面の構成としては、大変に劇的で厳格な、力強い計算づくの「安定感」を生み出しているのだ。

現実「空間」として捉えると、矛盾にみちた歪んだ「不安定」な世界を再現しているにもかかわらず、一方で、一枚の「平面」として捉えれば、厳格な計算による「安定」した構成をしている作品。

これを、一体どう考えたらいいのか?

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