世界に放り出された感覚
10歳から油彩をはじめた私ですが、言葉では上手く語れないそんな感覚を絵で表したいと思ったのは10代の終わり頃で、それを実現するにあたり、ふたつの壁にぶつかりました。
ひとつは、ぬけるような日本の冬空の青は、どこか鈍重なところのある油彩には適さないという壁。
もうひとつは、敬愛していたセザンヌをめぐる難問ですが、彼以降「どのようにして絵筆による外界の描写があり得るか」という壁でした。
(世間では「現代絵画の父」ないし「20世紀美術の父」として、つまり「はじまり」として評価されることの多いセザンヌですが、私は彼を「おわり」として、正確に言えば、「外の世界を写しとる絵画の終焉」として感じていたためです。詳しい説明は省略します。)
後年、油彩からアクリルを主とする表現に移行し、また、絵筆オンリーだった描画から「版」を活かす表現へと移行した結果、ふたつの問題は相対化され解決されたかにみえますが、実感としてはまだ不十分です。
この展示は、当時の「冬空の青」のもと、絶望や憧れといった - 青春時代に月並みの - “世界に放り出された感覚”を、なんとか実現したいと考える、そんな想い出のつまった作品のリメイクなのです。
[2009.11.15 木俣 創志]