天上の宝石―名づけてはいけないもの
世の中には美しいものがたくさんありますが、ふと空を見上げれば、ありふれた景色にさえ、地上の宝石よりもはるかに美しい天上の宝石が無数に散りばめられています。
ラニエリの演奏するバッハの無伴奏を聴きました。これは、バッハでありながら、“バッハを超えている”と思いました。たまたま、彼の音符を通過点とし、別の世界がこちらの世界に向かってじんわりと開示されているにすぎないのです。 このような体験をしたとき、音楽はその名前を失います。
感動体験ばかりではありません。深い哀しみやよろこびにみたされるとき、そこには名づけようのない ―いや、名づけてはならない何かがあります。言葉が、空間という空間、隙間という隙間を埋め尽くしてゆく今日ですが、ふと立止まるそんな時間や空間 が、名づけてはいけないものとして強く意識されるのです。
[2014.10.10]