晩年のセザンヌには、自身の不安・焦燥からの救いと「安定」を求めて「三角形」を使い、一方で、その不安・焦燥にいっそうのリアリティーを与えるために「三角形」を“打ち消す”描画をしている様なところがあると、以前述べた。(彼の晩年に頻繁に出現する三角形を、僕は「セザンヌ・トライアングル」と勝手に名付けているのだが-)
要するに、彼にとって「三角形」とは、こころの「安定」(安寧)のシンボルであり、また同時に、「抽象」化されていく絵画の“行き着く果て”のシンボルだったのではないか― 気がついてみると、ここ数回はそんな前提で語っていた。
「抽象=クール=三角形」というようなイメージが僕の念頭にあったからだ。
それを作品に即して確かめるため、セザンヌ晩年の、とくに「セザンヌ・トライアングル」の目立った絵を思いつくまま集めてみた。『サント・ヴィクトワール山とシャトー・ノワール』も並べたが、参考まで。
さて、これらの絵から、ここまで付き合ってくれた読者はどんな印象を受けるだろうか?
以前「三角形」についてじっくり考えたときに導き出した「三角形」のいろいろな特徴 ―クールでガッシリした「安定感」、そして「厳しさ」、「効率性」、「奥行き感」、「劇的効果」、「強度」などを、やはり先ず感じるのではないだろうか。
右:サント・ヴィクトワール山とシャトー・ノワール 1904-06