木俣創志 作品集 |KIMATA SOUSHI WORKS

セザンヌは自然をこう視た 61.人間の「眼線の動き」と三角形

静物

例えば、ここに示したような静物も、下の写真のグリーンのラインで示した「三角形」のかたちを正確に把握すれば、難なく再現できる。

具体的な事物 ―ボトル、チーズ、果物などの表情― にのみ眼を奪われていてはいけない。それらと“同時に”、(グリーンの)「補助線」を捕まえなければならない。

つまり、ボトル、チーズ、果物の“関係”を描かなければだめなのだ。具体的な事物を描くと同時に、それらの“関係”を描かなければならない、それがデッサンだからである。

「補助線」という考えは、デッサンを少し学ぶと登場する。ものの中心を貫く線(=正中線、センターライン)や、「線遠近法」の図解で示した多数の直線も、そのひとつである。 実際に、先ずは大まかに、次第に小さく細かく引っぱるのがコツだが、この「補助線」が「三角形」でなく、他の「かたち」 ―例えば、四角形を使うとどうなるか。当然のことながら、四角形を一本の対角線でカットすれば、2つの「三角形」となり、実質は「三角形」を使っているということに変わりはない。

静物のモティーフの関係を示す補助線 描き始めは大まかに…(左) 次第に細かく小さく…(右)

要するに、人間がものの「かたち」を正確に視ていこうとする場合の、最も“効率的”な無駄のない「眼線の動き」。あるいは「眼線の動き」のアトム、単位。「眼線の動き」の根源を成立させるものとして、「三角形」が存在している。どこをどう“押しても引いても揺るがない”かたち、それが「三角形」なのだ。

デッサンの速い人は、無数の「三角形」の“表情”を素早く読み取り、定着させることのできる人だ。異なるモティーフの根底にある「かたち」は、様々なかたちの「三角形」であり、僕たちは、デッサンをはじめ、ものの「かたち」を捉える上での基本的なかたちが「三角形」であることを先ず確認しておきたいと思う。

さて、「三角形」とは―

私たちの眼線にとって、最も「安定感」があり、“厳しさ”を感じさせ、線遠近法による「奥行き感」を暗示し、(静物のデッサンのコツで示したように)「強度」があり「効率的」である、ということとなるのだろうか。

さて、この「三角形」と晩年のセザンヌが、どう結びつくのか?

▶目次へ