木俣創志 作品集 |KIMATA SOUSHI WORKS

セザンヌは自然をこう視た 21.『赤いベストの少年』の腕が長い理由

さて、不自然な「長い腕」の理由を手短か?に…

その前にもうひとつ、「長い腕」にもまして、両腕の大きすぎる開き加減、その距離感も、僕はずっと不自然に感じていた。なぜこんなに大きく両腕が開いているのだろうかと。

左ひじをつく台(の様なもの)が高い位置にあるからだろう、って? そうだとすれば、台に載っている白い紙の面が大きく視えすぎる。高いはずの台をさらに高い位置から、つまり、かなり上方から俯瞰しなければ、こんなに紙の面は広く大きくならないはず。

…そんな事も念頭におき、さっそく謎解きを始めたい。

まず「少年の上体」を注目すると、ここでは、少年が“真横”からの視点でかかれている。

ところが、少年の両腕を載せているところを注目すると、「(レザーの様にも見える)ひざ掛け(orテーブル?)から(左ひじをつく)台」へと至る輪郭線。それが、かなり右あがりに立ちあがっているのに気づく。というのも、こちらはさっきと比べて、かなり“斜め上方”からの見下ろす視点でかかれているからだ。

つまりこの絵は、「少年の上体」では“真横”からの視点が強調され、「ひざ掛けから台にかけて」では“斜め上方”からの視点が強調されている。

(「一番それらしく視えるところからかいているだけだ」と言う画家の声が聞こえてきそう!)

そうして、異なる視点でかかれたそのふたつのパートは、先ほどの右あがりの輪郭線の辺りで強引につなぎ合わされている。なるほど、ここでもやはり、セザンヌ特有の空間の歪みが著しい。

さて、ここで問題の「長い腕」の理由だが、もうお気づきと思う。

シンプルに言ってしまえば、セザンヌは、「ひざ掛けや台」を“斜め上方”から視ているようにするため、「ひざ掛けや台」のこちら側を大きく下げる必要が生じた。結果、それに引きずられるようにして右腕は長く伸び、両腕も大きく開くこととなった、というわけである。

赤いベストの少年 1890-95

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